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東京地方裁判所 平成6年(ワ)10889号 判決

東京都千代田区大手町一丁目九番五号

原告

株式会社日本経済新聞社

右代表者代表取締役

鶴田卓彦

右訴訟代理人弁護士

光石忠敬

右同

光石俊郎

東京都新宿区西新宿六丁目二〇番一一号

被告

日経ビジネスリサーチ株式会社

右代表者代表取締役

松元和佳夫

主文

一  被告は、その営業上の施設又は活動に「日経ビジネスリサーチ株式会社」の商号及び「日経ビジネスリサーチ」の営業表示を使用してはならない。

二  被告は、その看板及び営業案内、定期刊行物、名刺、申込書、領収書その他の印刷物から「日経ビジネスリサーチ株式会社」及び「日経ビジネスリサーチ」の表示を抹消せよ。

三  被告は、原告に対し、東京法務局新宿出張所平成四年八月二一日付をもってした被告の設立登記中、「日経ビジネスリサーチ株式会社」の商号登記の抹消登記手続をせよ。

四  被告は、原告に対し、金二〇〇万円及びこれに対する平成六年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員を支払え。

五  原告のその余の請求を棄却する。

六  訴訟費用は被告の負担とする。

七  この判決は、第四項に限り、仮に執行することができる。

事実及び理由

一  原告は、主文第一項ないし第三項、第六項と同旨の判決及び主文第四項にかかる請求については、原告に対し金三〇〇万円及びこれに対する本件訴状送達の日の翌日である平成六年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による金員の支払いを求め、更に右金員の支払いについて仮執行宣言を求めるとともに、その請求原因として、次のとおり述べた。

1(一)  原告は、資本の額二〇億円、「新聞の発行及び之に関連する一切の事業」を目的とし、日本経済新聞、日経産業新聞、日経金融新聞、日経流通新聞、THE NIKKEI WEEKLYの新聞五紙を発行するとともに、会員向けのニューズレターの配布、会社年鑑、日経文庫シリーズなどの書籍、日経会社情報などの雑誌も刊行し、こうした新聞、雑誌、書籍、特信のほか、日経テレコンなどのデータサービスその他様々なメディアで多角的に情報を提供している。従業員総数約四六〇〇名のうち、編集局の記者は千名を超える。日本経済新聞の朝刊の発行部数は二九〇万部を超え、世界最大の経済総合紙である。

(二)  なお、原告を中心にして、出版系(日経BP社など)、電波系(日経テレプレスなど)、情報処理系(日経データなど)、販売系(日経PRなど)、広告系(日経広告など)、印刷・運輸系(日経印刷など)、不動産・サービス系(日経建物など)、海外系(日経アメリカ社など)、研究系(日経公社債研究所など)その他四七社に上る日経グループが形成されている。そのうちの株式会社日経リサーチは、昭和四五年一〇月一日設立され、資本の額三二〇〇万円、市場調査、産業・企業調査、社会調査、財務データ及び各種経済データの取材・メンテナンスの事業を行っており、被告の営業と一部重複する。

2  被告は、平成四年八月二一日設立登記され、資本の額一〇〇〇万円、「企業、個人に関する信用調査業務、出版物の企画発行並びに販売、企業経営に関するコンサルタント業務」等を目的とし、会員制を組織して登録料などを徴収し、会員に対し「日経ビジネスリサーチ情報」を配布し、調査を行うほか、テレフォンサービスを提供している。

3  原告の商号の略称でサービスマークでもある「日経」の営業表示は、遅くとも、昭和二〇年代の後半迄には周知著名となっている。すなわち、原告は、昭和二一年三月、現商号、現題号で新聞発行を開始したが、原告の商号及び題号は「日経」と表示されて取引された。発行部数は、昭和二二年に三五万部、昭和二九年には五五万部となっている。従業員数は、昭和二五年に七八三名、昭和二七年には一一九四名、昭和二九年には一四九三名と増大した。昭和二二年に支社一、支局三八、通信部六であったものが、昭和二九年には支社二、支局四八、海外支局五となっている。

昭和二九年までには、UP、AP、ロイター、ラジオ・プレスなどの通信社、ジャーナル・オブ・コマース紙、フィナンシャル・タイムズ紙などと特約、スリクター教授(ハーバード大学)、ペイシュ教授(ロンドン大学)、クラーク教授(オックスフォード大学)などと定期寄稿契約し、外国ニュースの充実を図った。

事業企画としては、昭和二九年までに、デミング賞と同時に日経品質管理文献賞を設け、夕刊日本経済を発行、日系俳壇欄、日経歌壇欄を設け、日経広告文化運動を実施するなどしている。戦後一〇年間に一八〇余種に上る単行本その他を出版したほか、昭和二九年以来、日経文庫、日経写真ニュース、日経広告手帳などが刊行されている。

販売体制として、昭和三〇年には、東京都内に六五の専売店が設けられ、その後、専売店の数はふえ、各地に広がった。

4  被告は、平成四年に商号登記を了し、事務所入口、営業案内、定期刊行物、名刺、申込書、領収書などの営業上の書類に右商号又は「日経ビジネスリサーチ」の営業表示を印刷し、自らを原告のグループたる「日経グループ」の一員であると説明している。

5  被告の商号及び「日経ビジネスリサーチ」の営業表示中の「ビジネス」、「リサーチ」、「株式会社」の部分には識別力が存しないから、被告の商号及び右営業表示の要部は「日経」の部分である。したがって、被告の商号及び「日経ビジネスリサーチ」の営業表示は、原告の周知著名な商号の略称ないしサービスマークたる「日経」の営業表示と類似する。

6  原告の周知著名な商号の略称ないしサービスマークたる「日経」と被告の商号及び営業表示とが類似しており、被告が「日経グループ」の一員と称していることから、原告と被告との間には親会社、子会社の関係や系列関係などの緊密な営業上の関係が存するものと誤信させるものであり、原告の営業上の施設又は活動と被告のそれとが誤認混同されており、また、被告の前記商号及び営業表示の使用により、原告はその営業上の利益を害されている。

被告を原告のグループ会社と誤信して被告に会員登録料年二六万円を支払うケースが跡を絶たず、被告の故意による行為により原告の信用は著しく毀損されている。

7  被告の前記行為により原告の被った損害は金一〇〇〇万円を下らない。

8  よって、原告は、被告に対し、不正競争防止法二条一項一号、三条及び四条に基づいて主文第一項ないし第三項と同旨の判決並びに右損害金のうち金三〇〇万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成六年六月一八日から支払済みまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める。

二  被告は、適式の呼出を受けながら、本件口頭弁論期日に出頭しないし、最初になすべき口頭弁論期日に陳述したものとみなすことのできる答弁書その他の準備書面も提出しないから、請求原因1ないし6の事実を明らかに争わないものと認め、これを自白したものとみなす。

請求原因7について判断するに、右争いのない原告の営業内容、原告の商号の略称及びサービスマークである「日経」の周知著名性、被告の営業内容及び被告の営業期間等を考慮すると、被告の行為によって原告の信用が毀損され、これによって原告が被った損害の額は、金二〇〇万円と認めるのが相当であり、これを上回る損害額についての原告の主張は理由がない。

三  右事実によれば、原告の請求は主文第一項ないし第三項の商号等の使用差止め、表示の抹消及び商号についての抹消登記手続並びに金二〇〇万円及びこれに対する平成六年六月一八日から支払済みまで年五分の割合による遅延損害金の支払いを求める限度で理由があるからこれを認容し、その余は理由がないから棄却することとし、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条、九二条但書を、仮執行の宣言につき同法一九六条をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 西田美昭 裁判官 高部眞規子 裁判官 大須賀滋)

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